戦国時代に造られた銀と緑松石(トルコ石)が
穴や淵を作り、そこに他の素材を嵌め込む技法を象嵌と云い、本作ではその象嵌により、銀とトルコ石が嵌め込まれており、大変煌びやかな作品です。
戦国期の象嵌作品は、後に再度象嵌されているものも少なくなく、とくにトルコ石は欠損しやすいためか新たに埋め直されているものも散見されます。断定はできませんが、そういったものは石の色が水色系の場合が多く、この時期のオリジナルは緑系もしくは、緑と明るめのマリンブルーとの混合のものが多い印象です。また、石質は単調ではなく、鉱物自体の年輪のような層や濃淡がみられるのが特長です。本作はそういったオリジナルの緑松石の残るうぶな状態の作例で、いやらしいところのない好感の持てる作品です。
ベースとなる青銅の色は、元は金色に近かったと考えられ、現状でも所々金色系の箇所が確認できます。造られた当初は金地に銀象嵌が映え、そこにトルコ石の緑が鮮やかに色どりを加える、極めて豪華な作品だったと想像されます。形状もたいへんエレガントで、しなやかに延びたフック部分までのラインが美しく、どことなく西洋や中近東の香りも感じさせます。この洗練された造形感覚は戦国期から漢代にかけてのもので、現代的な感覚に照らしても洒脱な印象です。中国古代美術に対して、そうした印象は一般的ではないのかもしれませんが、実際は、お洒落で都市的な華やぎを有するものもあるという明瞭な一例かと思います。