白色の地に透明感ある色彩が美しく映える筆筒です。清時代の康熙年間に景徳鎮で焼成されたもので、康熙五彩という呼称でも知られています。器面は細い枠で二つの画面に仕切られ、それぞれに瑞祥豊かな文様が描かれています。一方には、激しくしぶきを上げて跳ねる鯉が、どこかユーモラスな表情で描かれています。これは「鯉躍龍門」(りぎょくりゅうもん)、鯉が龍門の滝を登り切って龍になるという立身出世の象徴である鯉の滝登りを表しています。もう一方には、水瓶に活けられた蓮の花や、書物、火焔宝珠といった八宝が、ポップな感性で散りばめられています。赤色の図様には赤色、その他の色の図様には黒色と極細い輪郭線を使い分けていることも見て取れます。
康熙年間から作られるようになった康熙五彩は、それまでの五彩に見られない特徴を有しています。その一つとして、上絵付けに使用される顔料が、その組成や精製技術の向上によって発色とともに透明感、光沢感も向上したことがあげられます。加えて、青の顔料を上絵具として使用するようになったこともあります。それにより、他の色と同じ筆致でより自由で絵画的な描写が可能になりました。また、若干白濁した釉薬を使用することで白磁が優しい白色を呈し、顔料の華やかな発色を引き立てています。
筆筒が文房で使われる道具(文房具)になったのは明時代中期以降ですが、当初は竹製もしくは木製のものが使われていました。その後、明時代末から清時代の康熙年間にかけて磁器製のものが盛んに作られるようになり、絵付けによる加飾がその眼目の一つとなりました。本作はまさにそうした時代に作られた華やかさのある筆筒です。また、康熙の頃には、科挙合格の競争率がそれ以前に比して高くなったことでも知られています。立身出世や学問成就、成功への願いが込められた本作も、科挙の勉強に励む士の文房で使われていたかもしれないと想像が膨らみます。